論語」カテゴリーアーカイブ

孔子の論語 衛霊公第十五の三 予れは一以てこれを貫く

孔子の論語の翻訳392回目、衛霊公第十五の三でござる。

漢文
子曰、賜也、女以予爲多學而識之者與、對曰然、非與、曰、非也、予一以貫之。

書き下し文
子曰わく、賜(し)や、女(なんじ)予(わ)れを以(もっ)て多く学びてこれを識(し)る者と為すか。対(こた)えて曰わく、然(しか)り、非(ひ)なるか。曰わく、非なり。予(わ)れは一以てこれを貫く。

英訳文
Confucius said, “Zi Gong, do you think that I learned many things and understand them?” Zi Gong replied, “Yes, I do. Is there something wrong?” Confucius said, “Yes. I just give importance to keep only one thing.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「子貢(しこう)よ、お前は私が多くを学んでそれらすべてを理解しているとでも思っているのか?」
子貢が、
「はい、思っております。違うのですか?」
と答えると、孔子は、
「違う。私はただ一つの事を貫いているだけなのだ。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

子貢(しこう:姓は端木、名は賜、字は子貢。詳細は公冶長第五の九に。)

里仁第四の十五では曾子が「先生の人生は真心を貫くことにある。」と言っているでござるな。

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孔子の論語 衛霊公第十五の二 君子固より窮す、小人窮すれば斯こに濫る

孔子の論語の翻訳391回目、衛霊公第十五の二でござる。

漢文
在陳絶糧、從者病莫能興、子路慍見曰、君子亦有窮乎、子曰、君子固窮、小人窮斯濫矣。

書き下し文
陳(ちん)に在(いま)して糧(りょう)を絶つ。従者病みて能く興(た)つこと莫(な)し。子路(しろ)慍(いか)って見(みま)えて曰わく、君子も亦(また)窮(きゅう)すること有るか。子曰わく、君子固(もと)より窮す。小人窮すれば斯(こ)こに濫(みだ)る。

英訳文
Foods ran short at Chen. Attendants could not stand up by hunger. Zi Lu who was angry met Confucius and asked, “Can a gentleman get involved in trouble?” Confucius replied, “Of course, a gentleman can get involved in trouble. But a worthless man will be upset when he is in trouble.”

現代語訳
孔子一行が陳を通りかかった時に食糧がなくなってしまった。お供の者たちは飢えから立ち上がることもできなくなり、子路(しろ)が憤慨しながら孔子の前に来て尋ねました、
「人格者でも困窮する事がありますか!?」
孔子は、
「もちろん人格者であろうと困窮する、しかしつまらない人間と違うのは困窮しても取り乱さないところだ。」
と答えられました。

Translated by へいはちろう

子路(しろ:季路とも言う。姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

孔子の言葉を聞いた後の子路の表情が目に浮かぶようでござるな。絶句して何も言えなくなったでござろう。子路らしいと言えば子路らしくてほほえましいのでござるが。

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孔子の論語 衛霊公第十五の一 軍旅の事は未だこれを学ばざるなり

孔子の論語の翻訳390回目、衛霊公第十五の一でござる。

漢文
衛靈公問陳於孔子、孔子對曰、俎豆之事、則嘗聞之矣、軍旅之事、未之學也、明日遂行。

書き下し文
衛の霊公(れいこう)、陳(じん)を孔子に問う。孔子対(こた)えて曰わく、俎豆(そとう)の事は則(すなわ)ち嘗(かつ)てこれを聞けり。軍旅(ぐんりょ)の事は未(いま)だこれを学ばざるなり。明日(めいじつ)遂(つい)に行く。

英訳文
Marquis Ling of Wei asked about battle formation. Confucius replied, “I learned about the rites. But I have never learned about military affairs.” Confucius left Wei the next day.

現代語訳
衛の霊公(れいこう)が孔子に陣立てについて尋ねました。孔子は、
「祭祀の礼法については学びましたが、軍事については学んだ事はありません。」
と答え、翌日衛を去られました。

Translated by へいはちろう

衛の霊公(れいこう:在位BC534-BC493。詳細は憲問第十四の二十に。)

孔子は礼法の第一人者でござるから当然のことながら軍礼(戦の前に生贄を捧げて勝利を祈る儀式など)にも通じていたでござろうが、兵法に通じていたとは思えないでござるな。

儒学の考え方は孟子の「仁者無敵」に表れているように徳をもって世を統べる事にあるのでござる。ご存知の通り戦乱の世にはそんな悠長なこと言っている余裕は無いのでござるが、戦国を経て生き残った秦も楚も武力のみでは天下を保てなかった事を考えれば、漢のように理想と現実をうまく両立させるのが一番賢いのかも知れないでござるな。

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孔子の論語 憲問第十四の四十六 益を求むる者に非ざるなり、速やかに成らんと欲する者なり

孔子の論語の翻訳389回目、憲問第十四の四十六でござる。

漢文
闕黨童子將命矣、或問之曰、益者與、子曰、吾見其居於位也、見其與先生竝行也、非求益者也、欲速成者也。

書き下し文
闕党(けっとう)の童子(どうじ)、命(めい)を将(おこ)なう。或(あ)る人これを問いて曰わく、益者(えきしゃ)か。子曰わく、吾(われ)其の位に居るを見る。其の先生と竝(なら)び行くを見る。益を求むる者に非(あら)ざるなり。速(すみ)やかに成らんと欲する者なり。

英訳文
A boy from Que Tang served Confucius an errand. Someone asked about the boy, “Is he promising?” Confucius replied, “I saw the boy was sitting with adults and walking with seniors. He does not want to improve himself. He just wants to become an adult as soon as possible.”

現代語訳
闕(けつ)の村の少年が孔子の家の来客の取次ぎをしていた。
ある人が孔子に、
「あの少年には見込みがありますか?」
と尋ねると、孔子は、
「私はあの子が大人に混じって座っているのを見ましたし、先輩と並んで歩いているのも見ました。彼は自分を向上させたいのではなく、早く大人の仲間入りをしたいだけなのです。」
と答えました。

Translated by へいはちろう

それを上手に導いてあげるのが大人の役割だと思うのでござるが、確かに一理あるでござるな。

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孔子の論語 憲問第十四の四十五 是を賊と為す、杖を以て其の脛を叩つ

孔子の論語の翻訳388回目、憲問第十四の四十五でござる。

漢文
原壌夷俟、子曰、幼而不孫弟、長而無述焉、老而不死、是爲賊、以杖叩其脛。

書き下し文
原壌(げんじょう)、夷(い)して俟(ま)つ。子曰わく、幼(よう)にして孫弟(そんてい)ならず、長(ちょう)じて述(の)ぶること無く、老いて死せず。是(これ)を賊と為す。杖を以(もっ)て其(そ)の脛(はぎ)を叩(う)つ。

英訳文
Yuan Rang had been sitting and waiting for Confucius. Confucius said, “He was not obedient when he was a child. He was not anything when he was an adult. He is still living after getting old in vain. Such a person is a public enemy.” Confucius hit Yuan Rang’s shin with his cane.

現代語訳
昔なじみの原壌(げんじょう)が道にうずくまって孔子を待っていた。孔子は、
「子供の頃には反抗的で、大人になっても大した事もせず、無駄に年を取ってまだ死なずにいる。こんな輩こそ社会に害を為す賊と言うのだ。」
とおっしゃり、その脛を杖で叩きました。

Translated by へいはちろう

いかに孔子とはいえこれは眉をひそめずにはいられないでござるな。君子ならば小人を叩く事が許されるという訳ではなかろうと思うのでござるが、

老子の第三十八章にはこういう人間に対する批判があるでござる。

「礼を重んじる人間は他人が礼をもって答えないと無理やり自分と同じ事をさせようとする。~略~ とくに礼などというものは、人々から真心や信義が失われた後に作られたものであって、これこそが社会を乱すもとなのだ。」

孔子がどうこうよりも、仁の心を持たずに他人に自分の価値観を強要する人間は後を絶たないでござるな。気をつけたいと思う次第。

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