孔子の論語 陽貨第十七の十 人にして周南、召南を為ばずんば、其れ猶お正しく牆に面して立つがごときか

孔子の論語の翻訳455回目、陽貨第十七の十でござる。

漢文
子謂伯魚曰、女爲周南召南矣乎、人而不爲周南召南、其猶正牆面而立也與。

書き下し文
子、伯魚(はくぎょ)に謂(い)いて曰わく、女(なんじ)周南(しゅうなん)、召南(しょうなん)を為(まな)びたるか。人にして周南、召南を為ばずんば、其れ猶(な)お正しく牆(かき)に面して立つがごときか。

英訳文
Confucius said to Bo Yu, “Have you learned ‘Zhou Nan’ and ‘Zhao Nan’ of Shi Jing yet?” If you have not leaned them, it is like standing right in front of a wall without doing nothing. (you cannot advance.)”

現代語訳
孔子が伯魚(はくぎょ)におっしゃいました、
「詩経の周南(しゅうなん)、召南(しょうなん)はもう学んだか? 周南、召南を学ばなければ、ただ壁の正面に立ち尽くすだけの人間になってしまうぞ(前進できない)。」

Translated by へいはちろう

周南・召南とは詩経の中で各地の民謡の詩を集めた国風の中の、周南・召南地域の詩の事でござる。八佾第三の二十の關雎が有名でござるが、夫婦の愛情をうたったものが多いのが特徴でござるな。

孔子、伯魚、子思と三世代にわたって奥さんに逃げられた(三世出妻)方がこういう詩を好むとは…奥さんに自分の理想を押し付けすぎたんじゃないの?とか考える拙者は本当に野暮でござるな。

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孔子の論語 陽貨第十七の九 小子、何ぞ夫の詩を学ぶこと莫きや

孔子の論語の翻訳454回目、陽貨第十七の九でござる。

漢文
子曰、小子、何莫學夫詩、詩可以興、可以觀、可以群、可以怨、邇之事父、遠之事君、多識於鳥獣草木之名。

書き下し文
子曰わく、小子(しょうし)、何ぞ夫(か)の詩を学ぶこと莫(な)きや。詩は以て興こすべく、以て観るべく、以て群(ぐん)すべく、以て怨むべし。邇(ちか)くは父に事(つか)え、遠くは君に事え、多く鳥獣草木の名を識(し)る。

英訳文
Confucius said, “You all, why don’t you learn poetry? Poetry stirs you up, improves your observant eye, keeps your friendship and improves even your complaints. You will be dutiful to your parents and royal to your lord. You can learn names of birds, beasts, grass and trees.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「お前達、どうして詩を学ばないのだ?詩はお前たちの心を奮い立たせてくれるし、観察眼を鍛えてくれるし、人間関係を良くしてくれるし、恨み言さえ上手くなる。家では親孝行でき、主君には忠実になれる。また鳥や動物、草木の名前を憶える事ができるのだ。」

Translated by へいはちろう

正直すみません、まだ詩経は国風ぐらいしか読んだ事ないでござる。ここまで孔子にいわれて読まないのもどうかと思うのでござるが、図書館へ行くとつい儒学以外の哲学書・歴史書にも惹かれてしまって…

そういえば英語学習者であるはずなのに、最近まったく英語関係の本借りてないなぁ…

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孔子の論語 陽貨第十七の八 由よ、女六言の六蔽を聞けるか

孔子の論語の翻訳453回目、陽貨第十七の八でござる。

漢文
子曰、由女聞六言六蔽矣乎、對曰、未也、居、吾語女、好仁不好學、其蔽也愚、好知不好學、其蔽也蕩、好信不好學、其蔽也賊、好直不好學、其蔽也絞、好勇不好學、其蔽也亂、好剛不好學、其蔽也狂。

書き下し文
子曰わく、由(ゆう)よ、女(なんじ)六言(りくげん)の六蔽(りくへい)を聞けるか。対(こた)えて曰わく、未(いま)だし。居(お)れ、吾(われ)女に語(つ)げん。仁を好みて学を好まざれば、其の蔽や愚。知を好みて学を好まざれば、其の蔽や蕩(とう)。信を好みて学を好まざれば、其の蔽や賊(ぞく)。直を好みて学を好まざれば、其の蔽や絞(こ う)。勇を好みて学を好まざれば、其の蔽や乱。剛を好みて学を好まざれば、其の蔽や狂。

英訳文
Confucius said, “Zi Lu, have I ever told you six bad effects of six words?” Zi Lu replied, “Not yet.” Confucius said, “Sit down. Let me tell you. If you don’t like learning even though you like benevolence, you will be fool. If you don’t like learning even though you like wisdom, you will be wandering. If you don’t like learning even though you like trust, you will believe blindly. If you don’t like learning even though you like honesty, you will be stiff. If you don’t like learning even though you like courage, you will be violent. If you don’t like learning even though you like toughness, you will be fanatic.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「子路(しろ)よ、お前に六つの言葉の六つの弊害について教えた事があるかな?」
子路は、
「いいえ、教わっておりません。」
と答え、孔子は、
「では今から教えるから座りなさい。仁を好んでも学問を好まないと、愚か者になる。知を好んでも学問を好まないと、どうしたら良いか解らなくなる。信頼を好んでも学問を好まないと、盲信してしまう事になる。正直さを好んでも学問を好まないと、窮屈になる。勇気を好んでも学問を好まないと、乱暴者になる。強さを好んでも学問を好まないと、狂乱に陥ってしまう。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

子路(しろ:季路とも言う。姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

学問とは持って生まれた徳性を磨くために学ぶということでござろうか。

座学だけが学問ではないと思うのでござるが、確かに何をするにしても知識と経験の集積と分析は必要な事でござる。

孔子の偉大さは人が一生の内に経験できる事を書物に残し、後世の人間が「歴史から学ぶ事」を確立した事でござる。おかげで拙者のような「単純に歴史を学ぶのが好き」という、ちょっと本末転倒な学問好きも生まれるわけでござるが、孔子はどう考えられるのでござろうか。

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孔子の論語 陽貨第十七の七 焉んぞ能く繋りて食われざらんや

孔子の論語の翻訳452回目、陽貨第十七の七でござる。

漢文
仏肸招、子欲徃、子路曰、昔者由也聞諸夫子、曰、親於其身爲不善者、君子不入也、仏肸以中牟畔、子之徃也如之何、子曰、然、有是言也、曰不曰堅乎、磨而不燐、不曰白乎、涅而不緇、吾豈匏瓜也哉、焉能繋而不食。

書き下し文
仏肸(ひつきつ)、招く。子往(い)かんと欲す。子路が曰わく、昔者(むかし)由や諸(こ)れを夫子(ふうし)に聞けり、曰わく、親(みずか)ら其の身に於(お)いて不善を為す者は、 君子は入らざるなりと。仏肸中牟(ちゅうぼう)を以(もっ)て畔(そむ)く。子の往くや、これを如何(いかん)。子曰わく、然(しか)り。是(こ)の言(げん)有るなり。堅しと曰(い)わざらんや、磨(ま)すれども燐(うすろ)がず。白しと曰わざらんや、涅(でつ)すれども緇(くろ)まず。吾(われ)豈(あ)に匏瓜(ほうか)ならんや。焉(いずく)んぞ能(よ)く繋(かか)りて食われざらんや。

英訳文
Fo Xi invited Confucius and Confucius wanted to accept it. Zi Lu said, “Master, you said before, ‘Gentlemen never go around with people who do bad deeds.’ Fo Xi rebelled at Zhong Mou. Why do you want to go?” Confucius said, “Yes, I said that. But a proverb says, ‘A matter which is truly hard will not get thin even if you polish it. A matter which is truly white will not get black even if you dye it black.’ I am never a bitter gourd. I have to be eaten [employed] by someone.”

現代語訳
仏肸(ひつきつ)が孔子を家臣として招いて、孔子はそれに乗り気だった。
子路が、
「以前先生は、”人格者たるもの、自分から進んで悪事を働くような輩とは付き合わない。” とおっしゃいました。仏肸は中牟の街で反乱を起こしたのですよ。どうして先生が彼の下へ行くのですか?」
と言いました。孔子は、
「そうだな。しかしこんな言葉もある、”本当に硬い物は磨いても薄くならない。本当に白い物は染めても黒くならない。” 私は苦瓜のようにぶら下がったままでいる訳にはいかんのだ(誰かに用いてもらわねばならないのだ)。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

仏肸(ひつきつ:趙午とも呼ぶ。晋の大夫。趙簡子から「衛の民五百家を贈ってほしい。わしはそれを晋陽に置こうと思う」と言われ、仏肸は承諾して帰ったが邯鄲の長老たちが承知しなかったので結果的に仏肸は趙簡子との約束にそむいてしまった。そのため仏肸は反乱を起したことなり。趙簡子に討伐されて殺された。)

子路(しろ:季路とも言う。姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

しかし陽貨、公山不擾、仏肸と次々に反乱をおこした者に請われて、その度に応じそうになる孔子。儒学というとどうしても保守的なイメージがあるのでござるが、孔子の時代にはやはり新進気鋭の風格があったのでござろうな。

結局また子路に反対されて仕官は取りやめるのでござるが、孔子は聖人にあるまじき先の読めなさでござるな。そこが人間孔子らしくて良いとも言えるのでござるが。

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孔子の論語 陽貨第十七の六 能く五つの者を天下に行なうを仁と為す、恭寛信敏惠なり

孔子の論語の翻訳451回目、陽貨第十七の六でござる。

漢文
子張問仁於孔子、孔子曰、能行五者於天下爲仁矣、請問之、曰、恭寛信敏惠、恭則不侮、寛則得衆、信則人任焉、敏則有功、惠則足以使人。

書き下し文
子張(しちょう)、仁を孔子に問う。孔子曰わく、能(よ)く五つの者を天下に行なうを仁と為す。これを請(こ)い問う。曰わく、恭(きょう)寛(かん)信(しん)敏(びん)惠(けい)なり。恭なれば則(すなわ)ち侮られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人任じ、敏なれば則ち功あり、恵なれば則ち以て人を使うに足る。

英訳文
Zi Zhang asked about benevolence. Confucius replied, “If you put five virtues into practice, you are benevolent.” Zi Zhang asked what those are. Confucius replied, “respect, tolerance, faithfulness, smartness and mercy. If you are respectful, you will not be despised. If you are tolerant, you will be popular. If you are faithful, you will be trusted. If you are smart, you will achieve success. If you are merciful, you can use the people well.

現代語訳
子張(しちょう)が仁について尋ねました。孔子は、
「五つの徳目を実践できたら仁者と言えるだろう。」
と答えられました。子張が是非その五つを教えてくださいと頼むと、
「恭しさ、寛容さ、誠実さ、機敏さ、恵み深さだ。恭しく振舞えば、人から侮られる事はない。寛容であれば、人から好かれる。誠実であれば、人から信頼される。機敏であれば、功績を立てられる。恵み深ければ、人の上に立って彼らを上手く使う事ができる。」
と答えられました。

Translated by へいはちろう

子張(しちょう:姓は顓孫、名は師、字は子張。詳細は公冶長第五の十九に。)

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