論語」カテゴリーアーカイブ

孔子の論語 泰伯第八の十 人にして不仁なる、これを疾むこと已甚しきは乱なり

孔子の論語の翻訳197回目、泰伯第八の十でござる。

漢文
子曰、好勇疾貧亂也、人而不仁、疾之已甚亂也。

書き下し文
子曰わく、勇を好みて貧しきを疾(にく)むは乱なり。人にして不仁なる、これを疾むこと已甚(はなはだ)しきは乱なり。

英訳文
Confucius said, “A country will be in disorder if the courage people hate poverty. A country will be in disorder if people hate bad people excessively.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「勇気を好むものが貧困を嫌えば国は乱れるだろう。人々が悪人を過剰に憎めば国は乱れるだろう。」

Translated by へいはちろう

前半は蛮勇と貧困が国の乱れる原因だという事でござるな。勇気があって正義感の無い人間ならば盗賊になるだろうし、勇気があって正義感のある人間ならば国家に反逆しかねない、孔子の時代にはまだ民衆蜂起という概念はないので領主の統治を受け付けなくなるということでござる。(中国史上初の農民蜂起は支配体制が強まった秦の時代の陳勝・呉広の乱。)

後半はとても含蓄のある言葉で、悪を憎む気持ちは大切で悪事を働いた者は当然罰せられねばならないが、悪を憎む気持ちが過剰になると本来大切なはずの善性が人々から失われてしまう。ということでござろうか?

泰伯第八の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 泰伯第八を英訳を見て下され。

孔子の論語 泰伯第八の九 民は之に由らしむべし、之れを知らしむべからず

孔子の論語の翻訳196回目、泰伯第八の九でござる。

漢文
子曰、民可使由之、不可使知之。

書き下し文
子曰わく、民は之(これ)に由(よ)らしむべし。之れを知らしむべからず。

英訳文
Confucius said, “You can make people follow you. But it is difficult to make people understand the reason.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「人々を従わせる事はできても、その理由を人々に理解させるのは難しい。」

Translated by へいはちろう

孔子がこの言葉をおっしゃった時の真意はともかく、マキャベリズム的に受け取ると非常に嫌な言葉でござるな。

歴史を紐解けば、いつの世の中でも自分と違う考えを持つ人々や、自分の持っている知識を持たぬ人々を愚かだと嘲笑して、まるで自分が何か特別な存在であるかの様に錯覚している人はいるものでござる。

マキャベリも韓非子も理想に燃えながら現実の政治で挫折し、不遇な生活の中で非情としかいい様のない政治論を書き著したのでござるが、皮肉な事に彼らの政治論がある意味において評価されるのは民衆が古い倫理観と古い体制による支配を否定して新しい価値観を生み出す過程においてだったのでござる。

彼らの本を読めば解ると思うのでござるが、民衆を「愚かなもの」として扱うその内容は支配者も同様に「愚かである」事を如実に語っていて、為政者がこれらマキャベリズムを政治思想の根本にすえるのは愚の骨頂でござる。むしろこの様な考えが一般の人々に受け入れ始められた時、為政者は注意せねばならないでござろう。

もちろん現実を無視した理想論を蒙昧に信じるのではなく、少なくとも人々が理想ではなく現実ばかり見るようになったら、その為政者は人々にとって用済みとなったと言う事でござる。肝心なのは中庸でござる。

泰伯第八の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 泰伯第八を英訳を見て下され。

孔子の論語 泰伯第八の八 詩に興り、礼に立ち、楽に成る

孔子の論語の翻訳195回目、泰伯第八の八でござる。

漢文
子曰、興於詩、立於禮、成於樂。

書き下し文
子曰わく、詩に興(おこ)り、礼に立ち、楽(がく)に成る。

英訳文
Confucius said, “You must be inspired by poem, realize your duty by the courtesy and complete yourself by music.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「人は詩によって奮い立ち、礼によって自己の責務を自覚し、音楽によって自らを完成させる。」

Translated by へいはちろう

泰伯第八の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 泰伯第八を英訳を見て下され。

孔子の論語 泰伯第八の七 士は以て弘毅ならざるべからず

孔子の論語の翻訳194回目、泰伯第八の七でござる。

漢文
曾子曰、士不可以不弘毅、任重而道遠、人以爲己任、不亦重乎、死而後已、不亦遠乎。

書き下し文
曾子(そうし)曰わく、士は以て弘毅(こうき)ならざるべからず。任(にん)重(おも)くして道遠し。仁(じん)以て己が任と為す、亦(また)重からずや。死して後已(や)む、亦遠からずや。

英訳文
Zeng Zi said, “A person who aspires the Way must have broad-mind and strong-will. His mission is very important. And his road is very far. His mission is to be benevolent. How important it is! He never stop aspiring after the Way until his death. How far it is!”

現代語訳
曾子(そうし)がおっしゃいました、
「儒学の道を志す者は、広い心と強い意志を持たねばならない。その使命は重く、道は遠い。仁者となる事を使命とする、なんと重い使命だろう。その道を死ぬまで求め続ける、なんと遠い道のりだろう。」

曾子(Zeng Zi, 姓は曾、名は参、字は子與。詳細は里仁第四の十五に。)

とても重々しい言葉でござるが、仁というものを崇高なものに押し上げてしまいすぎている感は否めないでござるな。

述而第七の二十九で孔子は「欲すればすぐ隣にあるのが仁」とおっしゃっているでござる。拙者も僭越ながら孔子と同じ考えで、曾子の様に叙情的な言葉に酔って仁を形骸化させるよりは、身近な仁を一つ一つ積みかさねる方が良いと考える次第。

仁は使命ではなく喜びでござる。誰もが抱くささやかな真心をどうして重荷と感じられるでござろうか?必要なのは強い意志ではなく、素直な心でござる。

泰伯第八の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 泰伯第八を英訳を見て下され。

孔子の論語 泰伯第八の六 大節に臨んで奪うべからず

孔子の論語の翻訳193回目、泰伯第八の六でござる。

漢文
曾子曰、可以託六尺之孤、可以寄百里之命、臨大節而不可奪也、君子人與、君子人也。

書き下し文
曾子(そうし)曰わく、以て六尺(りくしゃく)の孤(こ)を託(たく)すべく、以て百里(ひゃくり)の命(めい)を寄(よ)すべく、大節(たいせつ)に臨(のぞ)んで奪(うば)うべからず。君子人(くんしじん)か、君子人なり。

英訳文
Zeng Zi said, “A person, to whom infant successor’s care can be left, to whom country affairs can be left, who is never discouraged when he is faced to an important matter. Can we call him a gentleman? Yes, indeed.”

現代語訳
曾子(そうし)がおっしゃいました、
「幼君の世話を任せることができ、国家の大命を任せることができ、大事に臨んでいささかもひるむところが無い。そんな人物は人格者と呼べるだろうか、まさに人格者である。」

Translated by へいはちろう

曾子(Zeng Zi, 姓は曾、名は参、字は子與。詳細は里仁第四の十五に。)

なんとなく武士道に通じるところもあり、お侍たちが好みそうな文章でござるな。

しかし一個人の能力や人格に国家万民の運命が左右されてしまう政治制度の方がどうかと思う次第。

泰伯第八の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 泰伯第八を英訳を見て下され。