論語」カテゴリーアーカイブ

孔子の論語 陽貨第十七の七 焉んぞ能く繋りて食われざらんや

孔子の論語の翻訳452回目、陽貨第十七の七でござる。

漢文
仏肸招、子欲徃、子路曰、昔者由也聞諸夫子、曰、親於其身爲不善者、君子不入也、仏肸以中牟畔、子之徃也如之何、子曰、然、有是言也、曰不曰堅乎、磨而不燐、不曰白乎、涅而不緇、吾豈匏瓜也哉、焉能繋而不食。

書き下し文
仏肸(ひつきつ)、招く。子往(い)かんと欲す。子路が曰わく、昔者(むかし)由や諸(こ)れを夫子(ふうし)に聞けり、曰わく、親(みずか)ら其の身に於(お)いて不善を為す者は、 君子は入らざるなりと。仏肸中牟(ちゅうぼう)を以(もっ)て畔(そむ)く。子の往くや、これを如何(いかん)。子曰わく、然(しか)り。是(こ)の言(げん)有るなり。堅しと曰(い)わざらんや、磨(ま)すれども燐(うすろ)がず。白しと曰わざらんや、涅(でつ)すれども緇(くろ)まず。吾(われ)豈(あ)に匏瓜(ほうか)ならんや。焉(いずく)んぞ能(よ)く繋(かか)りて食われざらんや。

英訳文
Fo Xi invited Confucius and Confucius wanted to accept it. Zi Lu said, “Master, you said before, ‘Gentlemen never go around with people who do bad deeds.’ Fo Xi rebelled at Zhong Mou. Why do you want to go?” Confucius said, “Yes, I said that. But a proverb says, ‘A matter which is truly hard will not get thin even if you polish it. A matter which is truly white will not get black even if you dye it black.’ I am never a bitter gourd. I have to be eaten [employed] by someone.”

現代語訳
仏肸(ひつきつ)が孔子を家臣として招いて、孔子はそれに乗り気だった。
子路が、
「以前先生は、”人格者たるもの、自分から進んで悪事を働くような輩とは付き合わない。” とおっしゃいました。仏肸は中牟の街で反乱を起こしたのですよ。どうして先生が彼の下へ行くのですか?」
と言いました。孔子は、
「そうだな。しかしこんな言葉もある、”本当に硬い物は磨いても薄くならない。本当に白い物は染めても黒くならない。” 私は苦瓜のようにぶら下がったままでいる訳にはいかんのだ(誰かに用いてもらわねばならないのだ)。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

仏肸(ひつきつ:趙午とも呼ぶ。晋の大夫。趙簡子から「衛の民五百家を贈ってほしい。わしはそれを晋陽に置こうと思う」と言われ、仏肸は承諾して帰ったが邯鄲の長老たちが承知しなかったので結果的に仏肸は趙簡子との約束にそむいてしまった。そのため仏肸は反乱を起したことなり。趙簡子に討伐されて殺された。)

子路(しろ:季路とも言う。姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

しかし陽貨、公山不擾、仏肸と次々に反乱をおこした者に請われて、その度に応じそうになる孔子。儒学というとどうしても保守的なイメージがあるのでござるが、孔子の時代にはやはり新進気鋭の風格があったのでござろうな。

結局また子路に反対されて仕官は取りやめるのでござるが、孔子は聖人にあるまじき先の読めなさでござるな。そこが人間孔子らしくて良いとも言えるのでござるが。

陽貨第十七の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 陽貨第十七を英訳を見て下され。

孔子の論語 陽貨第十七の六 能く五つの者を天下に行なうを仁と為す、恭寛信敏惠なり

孔子の論語の翻訳451回目、陽貨第十七の六でござる。

漢文
子張問仁於孔子、孔子曰、能行五者於天下爲仁矣、請問之、曰、恭寛信敏惠、恭則不侮、寛則得衆、信則人任焉、敏則有功、惠則足以使人。

書き下し文
子張(しちょう)、仁を孔子に問う。孔子曰わく、能(よ)く五つの者を天下に行なうを仁と為す。これを請(こ)い問う。曰わく、恭(きょう)寛(かん)信(しん)敏(びん)惠(けい)なり。恭なれば則(すなわ)ち侮られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人任じ、敏なれば則ち功あり、恵なれば則ち以て人を使うに足る。

英訳文
Zi Zhang asked about benevolence. Confucius replied, “If you put five virtues into practice, you are benevolent.” Zi Zhang asked what those are. Confucius replied, “respect, tolerance, faithfulness, smartness and mercy. If you are respectful, you will not be despised. If you are tolerant, you will be popular. If you are faithful, you will be trusted. If you are smart, you will achieve success. If you are merciful, you can use the people well.

現代語訳
子張(しちょう)が仁について尋ねました。孔子は、
「五つの徳目を実践できたら仁者と言えるだろう。」
と答えられました。子張が是非その五つを教えてくださいと頼むと、
「恭しさ、寛容さ、誠実さ、機敏さ、恵み深さだ。恭しく振舞えば、人から侮られる事はない。寛容であれば、人から好かれる。誠実であれば、人から信頼される。機敏であれば、功績を立てられる。恵み深ければ、人の上に立って彼らを上手く使う事ができる。」
と答えられました。

Translated by へいはちろう

子張(しちょう:姓は顓孫、名は師、字は子張。詳細は公冶長第五の十九に。)

陽貨第十七の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 陽貨第十七を英訳を見て下され。

孔子の論語 陽貨第十七の五 吾は其れ東周を為さんか

孔子の論語の翻訳450回目、陽貨第十七の五でござる。

漢文
公山不擾以費畔、召、子欲往、子路不説曰末之也已、何必公山氏之之也、子曰、夫召我者、而豈徒哉、如有用我者、吾其爲東周乎。

書き下し文
公山不擾(こうざんふじょう)、費(ひ)を以(もっ)て畔(そむ)く。招く。子徃(い)かんと欲す。子路説(よろこ)ばずして曰わく、之(ゆ)くこと末(な)きのみ。何ぞ必ず しも公山氏にこれ之かん。子曰わく、夫(そ)れ我を招く者にして、豈(あ)に徒(ただ)ならんや。如(も)し我を用うる者あらば、吾は其れ東周(とうしゅう)を為(おこ)さんか。

英訳文
Gong Shan Fu Rao rebelled at Fei. He invited Confucius and Confucius wanted to accept it. Zi Lu said unpleasantly, “It is not necessary. Why do you want to serve him?” Confucius replied, “I think he has a reason to invite me. If someone leaves governance to me, I will revive Zhou.”

現代語訳
公山不擾(こうざんふじょう)が費の街で反乱を起こした。彼は孔子を家臣として招いて、孔子はそれに乗り気だった。子路(しろ)がその事を不快そうに、
「行かずとも良いでしょう。どうしてあんな奴に仕えようとなさるのです。」
と言うと、孔子は、
「私を招くのだからそれなりの理由があるのだろう。もし誰かが私の理想に同意し任せてくれるのであれば、私はかつての周を取り戻すつもりだ。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

公山不擾(こうざんふじょう:公山不狃とも書く。魯の季孫氏の家臣で費の街の長官を務めていたが、陽貨と共に三桓氏に対して反乱を起こす。陽貨が敗れて亡命した後も費に立てこもって抵抗を続け、一時は魯の都である曲阜まで攻撃したが三桓氏と孔子によって討たれた。)

子路(しろ:季路とも言う。姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

孔子50歳の時の出来事でござるな。

「50歳にして天命を知る」と孔子はおっしゃっているのでござるが、孔子の使命感からくる焦りのようなものが感じられる文でござる。

陽貨第十七の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 陽貨第十七を英訳を見て下され。

孔子の論語 陽貨第十七の四 鷄を割くに焉んぞ牛刀を用いん

孔子の論語の翻訳449回目、陽貨第十七の四でござる。

漢文
子之武城、聞絃歌之聲、夫子莞爾而笑曰、割鷄焉用牛刀、子游對曰、昔者偃也、聞諸夫子、曰、君子學則愛人、小人學道則易使也、子曰、二三子、偃之言是也、前言戲之耳。

書き下し文
子、武城(ぶじょう)に之(ゆ)きて絃歌(げんか)の声を聞く。夫子(ふうし)莞爾(かんじ)として笑いて曰わく、鷄を割(さ)くに焉(いずく)んぞ牛刀(ぎゅうとう)を用いん。子游(しゆう)対(こた)えて曰わく、昔者(むかし)偃(えん)や諸(こ)れを夫子に聞けり、曰わく、君子道を学べば則(すなわ)ち人を愛し、小人道を学べば則ち使い易しと。子の曰わく、二三子(にさんし)よ、偃の言(げん)是(ぜ)なり。前言はこれに戯(たわむ)れしのみ。

英訳文
Confucius and his disciples went to Wu Cheng. They heard a singing voice and sounds of the strings. Confucius smiled and said, “It is not necessary to use a butcher knife to cut chicken.” Zi You said, “Master, you said before, ‘With learning (courtesy and music), a gentleman becomes loving people, and even a worthless man becomes easy to deal.'” Confucius said, “Everyone, he is right. I’m just kidding.”

現代語訳
孔子と弟子達が武城(ぶじょう)の街を訪れた時、琴の音にあわせて歌声が聞こえて来た。
孔子はにっこりと笑って、
「鶏をさばくのに牛刀を用いる必要は無いだろう。(こんな小さな街に礼楽とは大げさな)」
とおっしゃいました。すると武城の長官を務めている子游(しゆう)が、
「以前先生から、”礼楽を学ぶ事によって、人格者は人を愛するようになり、つまらぬ人間でさえ扱いが楽になる。” と聞いた事があります。」
と言いました。孔子は、
「お前達、子游の言葉は正しい(人は皆、礼楽を学ぶべきだ)。先の言葉は冗談だよ。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

子游(しゆう:姓は言、名は偃、字は子游。詳細は雍也第六の十四に。)

子游は孔子に褒めてもらえると思ったのに、大げさと言われて思わず言い返してしまったという事でござろうか。

ちなみに「鷄を割くに焉んぞ牛刀を用いん。」は小さな事に対して大げさな事をするという意味の言葉でござるが、英語では「(taking) a sledgehammer to crack a nut (くるみを割るのにスレッジハンマーを使う)」と言うそうでござる。スレッジハンマーとはコンクリートなどを砕く巨大なハンマーの事でござるが、イメージが豪快すぎたので採用しなかったでござる。

陽貨第十七の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 陽貨第十七を英訳を見て下され。

孔子の論語 陽貨第十七の三 唯上知と下愚とは移らず

孔子の論語の翻訳448回目、陽貨第十七の三でござる。

漢文
子曰、唯上知與下愚不移。

書き下し文
子曰わく、唯(ただ)上知(じょうち)と下愚(げぐ)とは移らず。

英訳文
Confucius said, “The greatest wise and the lowest fool never change.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「本当に賢い人間と本当に愚かな人間だけは変わる事がない。」

Translated by へいはちろう

前回の「学習によって人間は変わる」を受けての言葉でござるな。

なんとなく前回と矛盾するかと思われるかも知れないが、以下のような解釈はどうでござろう?

本当に賢い人間から学ぶ事を取り上げる事などできない。また本当に愚かな人間に学ばせる事などできない。

いやあくまで解釈であって、拙者の意見ではないのであしからず。学ぶ事を快楽だと思っている拙者は愚者のように学ぶのみでござる。

陽貨第十七の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 陽貨第十七を英訳を見て下され。