学問のすすめ 三編 段落四 既にその権義あれば、亦随てその職分なかるべからず

学問のすすめの翻訳、三編 段落四でござる。

現代語訳

 こういう事であるから、外国の脅威から我が国を守るためには、自由独立の気風を全国に充満させて、身分や地位に関係なく国中の人々全員が、国の問題を自分の問題として考え、智者も愚者も、目が見える者も目が不自由な者も、それぞれが国民としての責務を果たさねばならない。

英国人は英国を自分の大切な国と思い、日本人は日本国を自分の大切な国と思う。その国の土地は他国の人間のものではない、自国の人間の土地であるから、国の事を考える時には自分の家の事の様に考え、国家のためには財産を投げ打つだけに留まらず、自分の命を捨てる事さえ惜しむべきではない。これが国家に報いる報国の大義である。

確かに国の政治を行うのは政府であって、人民はその統治下にある存在であるけれども、これは双方の利益のために都合上その役目を分けたというだけの事である。国家全体の名誉にかかわる問題が起きた時には、その国に生きる人民としてその責任を政府だけに押しつけて、ただ傍観していれば良いという事ではない。

すでに日本国の誰それ、英国の誰それと、その姓名の肩書に国の名前が付き、その国で暮らし、その国で自由に行動する権利を得ている。権利があるからには、それに応じた責任もあって当然の事である。

英訳文

Therefore, to defend our country from foreign threats; all Japanese people, both the upper class and the lower class, the wise and the fool, the fit and the disabled, must have the spirit of independence, consider its problems as one’s own problems and fulfill obligations of the people.

English people consider England as their own country and Japanese people consider Japan as their own country. Each country’s territory is not foreign people’s land. It is each country’s people’s land. So the people should consider their country as their own home and serve it at the risk of their life and property. This is how to serve the country.

It is no doubt that the government rules the country and the people are ruled by the government. However, it is only because they share their roles for the convenience of both side. So, to maintain the national honor, we must not just rely on the government and must not be bystanders.

Whether in Japan or in England, the people who have its nationality have the rights and freedom within the country. If you already have the rights, you must have obligations as well.

Translated by へいはちろう

日本語では主権を持った国の事をしばしば「国家」と表現するでござるな。これは人間社会で最も基本的な集団の単位である家族を基準としてその道徳律を構成した儒学の影響であろうと拙者は考える次第でござる。

おそらく当時の日本人でも、国民国家(nation-state) だの社会契約だのと難しい説明をするより、「国家とは言わば一つの大きな家族である」と説明した方が解りやすかったに違いない。それが良かったのか悪かったのか、結果として「報国の大義」は国中に満ちても、「自由独立の気風」は全国に充満する事なかった点について、もしも福沢諭吉が知ったらどう思うのでござろうか。

ちなみに学問のすすめの原文内に「国家」という単語は、「天下国家」という形で二度しか登場してないでござる。

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