学問のすすめ 三編 段落八 人を束縛して独り心配を求るより、人を放て共に苦楽を与にするに若かざるなり

学問のすすめの翻訳、三編 段落八でござる。

現代語訳

 上の三ヶ条で述べた事は、人民に独立心が無い事から起こる弊害である。今の時代に生まれて、仮にも国を愛する気持ちを持つ者ならば、官私の別を問わず先ず自身が独立を成し遂げ、なお余力があれば他者の独立を助けてやるべきである。父親や兄は子や弟に独立を教え、教師は生徒に独立を勧め、士農工商すべての人々が独立をして国を守らねばならない。解りやすく要約すれば、人々を束縛して独りで困難を抱え込むよりも、人々を解き放ってその困難を共有した方が良いという事だ。

英訳文

Three articles I said above are problems caused by the lack of the spirit of independence. Those who live today and love their country, whether they are public servants or not, should become independent. After that, if you have remaining power, you should help others become independent. Parents and older siblings should teach their children and younger siblings independence. Teachers should encourage their students to become independent. All people of the four categories should become independent and defend their country together. In other words, it is better to free the people and share the burden than to bind the people and shoulder the burden by yourself.

Translated by へいはちろう

今回の文に見られる通り、福沢諭吉の考える独立とは助け合いの精神を否定するものではなく、むしろ大いに奨励するものでござる。

生まれたばかりの赤ん坊に対して独りで歩けと言った所でどう考えても無茶な話でござる。当然その子が成長するまでは両親や周囲の年長者が保護を与えなければならないわけでござるが、いつまでもそのままずっと保護下に置いておけば良いという話でもない。

江戸時代までの儒学的な価値観では、民衆はまるで赤ん坊のように無力で無知なままの方が彼らを支配する上で都合が良かったというのは、三編の段落三で福沢が他人の言葉を引き合いに出して述べている通りでござるが、今後はそうではなく、民衆を独立した人間として成長させて苦労を共に分かち合った方が国家全体の力が増すという事でござるな。

「独立」という言葉のみを抜き出して助け合いの精神を否定してしまうと、福沢が言いたかった事とだいぶニュアンスが変わってしまうので注意が必要でござるな。

学問のすすめの原文・現代語訳・英訳文をまとめて読みたい方は本サイトの 学問のすすめを英訳 をご覧くだされ。