孔子の論語の翻訳296回目、顔淵第十二の七でござる。
漢文
子貢問政、子曰、足食足兵、民信之矣、子貢曰、必不得已而去、於斯三者、何先、曰去兵、曰必不得已而去、於斯二者、何先、曰去食、自古皆有死、民無信不立。
書き下し文
子貢(しこう)、政(せい)を問う。子曰わく、食を足し兵を足し、民をしてこれを信ぜしむ。子貢が曰わく、必ず已(や)むを得ずして去らば、斯(こ)の三者(さんしゃ)に於(おい)て何(いず)れをか先きにせん。曰わく、兵を去らん。曰わく、必ず已むを得ずして去らば、斯の二者(にしゃ)に於て何ずれをか先きにせん。曰わく、食を去らん。古(いにしえ)より皆死あり、民は信なくんば立たず。
英訳文
Zi Gong asked about politics. Confucius replied, “It is to suffice people with food, to prepare the military and to make people have faithfulness.” Zi Gong asked, “If you had to exclude one of three inevitably, which would you exclude?” Confucius replied, “The military.” Zi Gong asked, “If you had to exclude one of two inevitably, which would you exclude?” Confucius replied, “Food. Everyone dies without fail from old times. If the people have no faithfulness, the society never be organized.”
現代語訳
子貢(しこう)が政治について尋ねました。孔子は、
「食糧をいきわたらせること、軍備を整えること、人々に信義を植え付けることだ。」
と答えられました。子貢は、
「やむを得ずして三つのうち一つを犠牲にせねばならないとしたら、どれを犠牲にしますか?」
と尋ね、孔子は、
「軍備だな。」
と答えられました。子貢はさらに、
「やむを得ずして残った二つのうち一つを犠牲にせねばならないとしたら、どちらを犠牲にしますか?」
と尋ねたので、孔子は、
「次は食糧だ。昔から人の死は避けられないものだが、信義なくば人間社会が成立しない。」
と答えられました。
Translated by へいはちろう
子貢(しこう:姓は端木、名は賜、字は子貢。詳細は公冶長第五の九に。)
人々を養うこと、人々の生命を守ること、集団としての機能を保つこと。これらのどれが欠けても政治は成り立たないのでござるが、敢えて尋ねるところが子貢らしいでござるな。
しかし春秋時代の名宰相である管仲は孔子とは違い「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る。」(衣食足りて礼節を知る) – 管子 と述べており、実際に政治を携わって斉を豊かにした実績から来る説得力が伝わってくるのでござる。
対して孔子の方は、周の不忠をよしとせず山中に餓死した伯夷・叔齊を仁者と称えるぐらいでござるから信義を失うよりは死んだほうがマシという考えであったのでござろう。個人の生き様としてはともかく政治に携わる者の価値観ではござらんな。
ただやはりこれは質問が悪いので極論をもって孔子を批判するのはやめにしたいものでござる。乱世はともかく治世には信義・道徳に比重をおいて政治を行うのは当たり前といえば当たり前でござるな。
なおこの章は、三番目を「人民に政治を信頼させること」という様に解釈する事も多いでござる。そうなると文全体のニュアンスが若干変化するでござるが、孔子のおっしゃりたい事はほぼ同じでござるな。
顔淵第十二の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 顔淵第十二を英訳を見て下され。