十七条憲法を翻訳 九に曰く

聖徳太子による十七条憲法の翻訳、第九条でござる。

原文
九曰、信是義本。毎事有信。其善惡成敗、要在于信。群臣共信、何事不成。群臣无信、萬事悉敗。

書き下し文
九に曰く、信はこれ義の本(もと)なり。事毎(ことごと)に信あるべし。それ善悪成敗(ぜんあくせいばい)はかならず信にあり。群臣(ぐんしん)とも信あるときは、何事か成らざらん。群臣信なきときは、万事ことごとく敗れん。

英訳文
Faith is the foundation of justice. In everything let there be faith. It depends on faith, whether everything is good or bad, succeeds or fails. If vassals have faith one another, everything will be accomplished. If they don’t, everything will fail.

現代語訳
信頼は正義の根本である。どのような事においても信頼を大切にしなさい。物事が善くなるのも悪くなるのも、成功するのも失敗するのもすべて信頼があるかどうかにかかっている。臣下たちが互いに信頼しあっていれば、どんな事でも成し遂げられるだろう。臣下たちが互いに信頼しあっていなければ、どんな事でも失敗するだろう。

Translated by へいはちろう

良い人間関係を保つには信頼が重要だということで、人の和に重きを置いた太子ならではの条文でござるな。ここで拙者は現代語訳を解りやすくするために “信” の字に “信頼(faith)” という訳語をあてたのでござるが、ここでこの字の意味を再確認したいと思うでござる。

字形を見ても解るとおり 人 + 言 = 信 ということで、自らの言葉を守るというのが元々の意味でござるな。

そして春秋時代に儒学の祖である孔子が最高の徳目として “仁” という概念を作り出して礼楽の実践によって人格者になれると説き、戦国時代の孟子がそれを拡大して “仁・義・礼・智” という四つの徳目について説き、漢代に入ってこれに “信” が付け加えられて人が重んじるべき “五常の徳” と呼ばれるようになったのでござる。第七条でも言及した冠位十二階には “徳・仁・礼・信・義・智” の六つの徳目をその名称に用いているでござるが、五常の徳の順番が本家の儒学と異なっている点には注意が必要でござろうな。少なくともこの条文にある通り、太子が義よりも信の方を重要視していた事は間違いないでござろう。

ついでに “義” という字の意味を解説すると、羊 + 我 = 義 という事で、神様に供えた羊の肉(羊)をのこぎり(我)を使って公正に分ける事から、公正である事を指すような意味が生まれたのでござる。

ここでは解りやすく “信” は “信頼(faith)” 、”義” は “正義(justice)” と訳したでござるが、個々人がどのように受け取るかはそれぞれの自由で良いでござろう。

※全条文の英訳を読みたい方は聖徳太子の十七条憲法を英訳をご覧くだされ。