I haven’t had a pancake for the last eighty-five years. パンケーキを食べるのは85年ぶりだ

前回の更新から1週間ほどでまた更新するという快挙を成し遂げる、いつか使ってみたい英語表現シリーズ。

I haven’t had a pancake for the last eighty-five years.
パンケーキを食べるのは85年ぶりだ。

今回紹介するのもまたムーミンの小説から。シリーズ第3作目の「たのしいムーミン一家(邦題) / Finn Family Moomintroll(英題) / Trollkarlens hatt(スウェーデン語原題)」の149ページ目、ムーミン達がパーティしている最中にやってきた「飛行おに (英語名:Hobgoblin / スウェーデン語名:Trollkarl)」がムーミンママからパンケーキをもらって言ったセリフでござる。

“Give me something to munch,” said the Hobgoblin. “This is getting on my nerves.” Moominmamma at once busled forward with pancakes and jam, and gave him a big plateful. While the Hobgoblin was eating they edged a little nearer. Somebody who eats pancakes and jam can’t be so awfully dangerous. You can talk to him. “Does it taste good?” asked Thingumy. “Yes, thanks,” said the Hobgoblin. “I haven’t had a pancake for the last eighty-five years.” At once everybody felt sorry for him, and came still nearer.

Tove Jansson / Finn Family Moomintroll 第7章より

直訳すると「私はここ85年間パンケーキを食べていません」という感じでござるが、既に食べている最中のセリフなのでより日本語的に「パンケーキを食べるのは85年ぶりです」と訳した方が良いでござろう。もちろん食べてなければ直訳のままの意味としても使えるでござるよ。

さてこの「~年ぶり」という英語表現としては “for the first time in ~ years” というのが英語学習者には馴染みが深いのではないでござろうか。今回のセリフをこれに従って言い換えると、

I have a pancake for the first time in eighty-five years.

となるでござる。have が現在形なのはもちろんパンケーキを食べている最中だからで、よりそれを強調する場合には現在進行形にするのもありでござろう。

ただし我々日本人としては翻訳者である Elizabeth Portch氏がどうしてこの表現を使わず、”I haven’t had a pancake for the last eighty-five years.” という表現にしたのかという事を考えねばならないでござろうな。

これは拙者の見解でござるが “I haven’t ~” と否定形を使う事によって、より「(長い間)食べた事がなかった」というニュアンスが強調されるのではないでござろうか。後者の表現だと「(久しぶりに)食べた事」の方が強調される感じでござる。そして前者の表現の方がその後に続く、「ムーミン達が彼に同情してそばに近寄った」というエピソードにマッチする…、様に拙者には思えるでござる。

とまあそれはさておき、今回の英語表現は状況に応じて細かい部分を入れ替えれば結構使えると思うので覚えておいて損はないと思う次第でござる。また洋書を読んでいて面白い英語表現を見つけた時は、「どうしてその表現が使われたのか?」について思いをめぐらせて見ると良いでござるよ。英語でも日本語でもどんな言葉でも同じことでござるが、何気なく使われる言語表現には必ずそれなりの理由があるもので、それが小説ならばなおさらの事でござろう。