学問のすすめ 二編 段落三 平民の生命は我生命に非ずして借物に異ならず

学問のすすめの翻訳、二編 段落三でござる。

現代語訳

 またこの事を世の中に当てはめてみよう。旧幕府の時代には侍と民衆の区別がはなはだしく、士族はいたずらに権威を振るって、百姓や町人をまるで罪人の様に見下していた。百姓町人から無礼を受けたら切り殺しても良いと言う切捨御免などの法もあった。この法によれば、彼ら平民の生命は自分のものではなく借り物みたいなものと言わざるを得ない。百姓町人は何の所縁もない侍に平身低頭し、外にあっては道を譲り、内にあっては席を譲り、さらにひどい事に自分の家で飼っている馬に乗ることさえ許されないという不便を強いられていた事はけしからぬ事ではないか。

英訳文

And let’s apply this argument to the society. In the Edo period, there were a lot of differences between samurais and commoners. Samurais were arrogant, treated commoners as if they were criminals, and looked them down. There was a law that allowed samurais kill commoners to defend their honor. According to the law, commoners’ lives were not theirs, they were no more than borrowed lives. They had to prostrate themselves to even relationless samurais, give their way outdoors and give up their seats indoors. What’s worse, they were not allowed to ride horses they owned. Such things are unforgivable, aren’t they?

Translated by へいはちろう

武士の特権の一つである切捨御免については時代劇などで知っている御仁も多かろうと思うのでござるが、実際にはそんな安易に切って捨てて良いという様なものでもなかったようでござるな。例えるならば、実際の警察官がTVドラマの刑事の様には銃を撃てないのと同じ様なものでござろうか。

ただしここで江戸時代の平民の立場に立ってみれば、ただ切られる可能性があるというだけでかなりの恐怖である事もまた事実でござろう。武士と一言で言っても様々で、食い詰めた浪人なんかに刀をもって脅されればおいそれとは逆らえない。福沢がここで「平民の命はまるで借り物」と言っているのもあながち的外れな表現ではないのでござろうな。

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