聖徳太子による十七条憲法の翻訳、第四条でござる。
原文
四曰。群卿百寮。以礼為本。其治民之本、要在乎礼。上不礼而下非齊。下無礼以必有罪。是以群臣有礼、位次不乱。百姓有礼、国家自治。
書き下し文
四に曰く、群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)、礼を以(も)って本(もと)とせよ。それ民を治むるの本は、かならず礼に在り。上(かみ)礼なきときは、下(しも)斉(ととの)わず、下礼なきときは以って必ず罪有り。ここを以って、群臣(ぐんしん)礼有るときは位次(いじ)乱れず、百姓(ひゃくせい)礼あるときは国家自(おのずか)ら治(おさ)まる。
英訳文
All the ministers and public officers should be based on courtesy. It must be based on courtesy to rule the people. If the public officers are not courteous, the common people are disorderly. If the common people are not courteous, there must be crimes. Therefore when the ministers and officers are courteous, the distinction of classes are not confused. And when the common people are courteous, the country will be in good order spontaneously.
現代語訳
朝廷に仕える官吏たちは、礼を行動の基本としなさい。民衆を治めることの基本は礼にある。人の上に立つものが礼を軽んずれば下の者たちの秩序は乱れ、下の者たちが礼を軽んずるようになれば必ず罪を犯す者がでてくる。だから臣下の間に礼が行われていれば身分秩序は乱れず、民衆の間に礼が行われていれば国家は自然と治まるものだ。
Translated by へいはちろう
前回に引き続き、儒学的表現の多い条文でござるな。特に礼というのは儒学が最も重んじる徳目の一つで(仁・義・礼・智・信)、第一条でも言ったとおり太子が最も重んじる和の徳と密接な関連があるのでござる。
では “礼” とは一体なんなのかという事についてここで再確認しておくことにするでござる。現在では礼儀作法などと言われるように、人と交際する上でのマナーのような認識を持っておられる御仁が多かろうと思うのでござるが、もともとは冠婚葬祭などすべての儀式における言動や服装や道具を規定した決まりごとの総称でござった。儒学の祖である孔子は主に葬儀に関する礼を司る儒者とよばれる階級の出身で、自らの思想の中で礼を社会秩序を保つ行動規範の中心に据えた事により、その後の教養人にとって礼は最も重んじる徳目の一つとなったのでござる。
ただし孔子にとっての礼は上辺の行動を取り繕うようなものではなく、相手に対する敬意と謙譲の精神が伴わなければならぬものでござった。おそらく太子が考える礼もこれに近いものであったでござろう。人の上にたつ官吏たちが互いに敬意と謙譲の心で行動すれば、それに感化されて民衆も互いに敬意と謙譲の心を持つようになる。そうすれば国家全体の和が保たれるという事でござるな。
※全条文の英訳を読みたい方は聖徳太子の十七条憲法を英訳をご覧くだされ。