聖徳太子による十七条憲法の翻訳、第三条でござる。
第三条
原文
三曰、承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆地載。四時順行、萬気得通。地欲覆天、則致懐耳。是以、君言臣承。上行下靡。故承詔必愼。不謹自敗。
書き下し文
三に曰く、詔(みことのり)を承(うけたまわ)りては必ず謹(つつし)め。君をば天とす。臣をば地とす。天は覆(おお)い、地は載(いただ)く。四時(しじ)順行(じゅんこう)して、万気(ばんき)通(つう)ずることを得(う)る。地、天を覆わんと欲するときは、則(すなわ)ち壊(やぶ)るることを致さん。ここを以って、君言(のたま)うときは臣承る。上(かみ)行うときは下(しも)靡(なび)く。ゆえに詔を承りては必ず謹め。謹まずば、自(おのず)から敗れん。
英訳文
You must obey an imperial order certainly. An emperor is the heaven, vassals are the ground. The heaven overspreads the ground, and the ground supports the heaven. Then four seasons can rotates correctly and spirits of nature can run through whole the world. If the ground wants to overspread the heaven, it will ruin the order of nature. Therefore vassals must obey their lord. If superiors do it, inferiors will follow them. Therefore you must obey an imperial order certainly. Otherwise you will ruin the national order.
現代語訳
天皇のお言葉には必ず謹んで従いなさい。君主を天とするならば、臣下はいわば地である。天は地を覆い、地は天を戴くのがこの世の理である。その理に従って四季は巡り、万物の気は通うことができるのだ。もしここで地が天を覆おうとしたならば、この循環が壊れてしまうことだろう。だから君主の言葉に臣下は従わねばならない。人の上に立つ者たちが君主の言葉に従えば、下の者たちもそれを見習うものだ。だから天皇のお言葉には必ず謹んで従いなさい。さもなければ、国の秩序を駄目にしてしまうだろう。
Translated by へいはちろう
第三条になってようやく天皇の権威について言及する内容がでてくるでござる。なぜこの条文が第一条ではないのかは第一条の解説で拙者の見解を述べたでござるが、ここでは儒学的な表現で上下の身分秩序を保つことの重要性を説いているのでござるな。
ただしこれもまた第一条でも既に述べたとおり、この条文の内容に反して当時の天皇の権威はそれほど高くはないのでござる。592年には蘇我馬子が東漢駒に命じて崇峻天皇を弑逆(暗殺)させているし、その後の政治運営に実際にあたっていたのは推古天皇ではなく太子と馬子でござった。後世の儒学者には太子が大逆人である馬子を討伐しなかった事について非難する者も多いのでござる。
なんとなく太子の理想と現実の間にある矛盾が見えてくるようでござるが、太子にとっての優先順位は天皇の権威が重要ではあっても一番ではないということでござろう。いずれは自らが皇位に就く予定の太子は、自分が天皇になったときにこそ理想の国家が実現されるように準備をしていたという事ではないでござろうか。
※全条文の英訳を読みたい方は聖徳太子の十七条憲法を英訳をご覧くだされ。