孔子の論語 先進第十一の二十四 道を以て君に事え、不可なれば則ち止む

孔子の論語の翻訳287回目、先進第十一の二十四でござる。

漢文
季子然問、仲由冉求、可謂大臣與、子曰、吾以子爲異之問、曾由與求之問、所謂大臣者、以道事君、不可則止、今由與求也、可謂具臣矣、曰、然則從之者與、子曰、弑父與君、亦不從也。

書き下し文
季子然(きしぜん)問う、仲由(ちゅうゆう)、冉求(ぜんきゅう)は大臣と謂(い)うべきか。子曰わく、吾(われ)子を以(もっ)て異(こと)なるをこれ問うと為す、曾(すなわ)ち由(ゆう)と求(きゅう)とをこれ問う。所謂(いわゆる)大臣なる者は、道を以て君に事(つか)え、不可なれば則(すなわ)ち止(や)む。今、由と求とは具臣(ぐしん)と謂うべし。曰わく、然(しか)らば則ちこれに従わん者か。子曰わく、父と君とを弑(しい)せんには、亦(また)従わざるなり。

英訳文
Ji Zi Ran asked, “Zhong You and Ran Qiu are excellent vassals, aren’t they?” Confucius replied, “I thought you would ask a different question. You asked about Zhong You and Ran Qiu. An excellent vassal must serve his lord rightly. Or he must resign. Zhong You and Ran Qiu are just vassals to make up the number.” Ji Zi Ran asked, “So they obey our order blindly, don’t they?” Confucius replied, “They cannot obey an order to kill their father or their lord.”

現代語訳
季子然(きしぜん)が尋ねました、
「仲由(ちゅうゆう)と冉求(ぜんきゅう)は素晴らしい家臣と言えますね。」
孔子は、
「私はあなたがもっと別の事を尋ねると思っていました。仲由と冉求ですか、素晴らしい家臣というのは正道をもって主君に仕えて、それがかなわぬ時には職を辞するものです。彼らはそれもせずにいます、ただの数合わせの家臣に過ぎません。」
と答えられました。すると季子然が、
「彼らは我々の言いなりになる家臣だと言う事ですか?」
と尋ね、孔子は、
「いくら彼らでも父親や主君を殺すなどと言う無道な命令には従いますまい。」
と答えられました。

Translated by へいはちろう

季子然(きしぜん:魯の大夫。魯の実質的支配者である三桓氏の一つである季孫氏の一門。)

仲由(ちゅうゆう:姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

冉求(ぜんきゅう:姓は冉、名は求、字は子有。詳細は八佾第三の六に。)

これは孔子が魯国の司寇(警察・司法責任者)を務めていた時の話でござろうか、仲由と冉求は孔子の推薦によって季孫氏に仕えていたのでござる。

孔子の門下でも特に政務に優れると孔子自身が評する仲由と冉求を家臣としていたのでござるから、季子然は当然孔子が同意してくれるものと思って言ったのでござろう。

しかし孔子自身はこの時、主君である魯公をないがしろにする三桓氏を抑えて君権を強化して身分秩序を取り戻すことに専念していたので、季孫氏にとって有能でも孔子にとってちっとも役に立たない仲由と冉求に対して苛立ちを感じていたのでは無いでござろうか。

そもそも仲由と冉求を季孫氏に推薦したのも、孔子の魯国での影響力を強化して季孫氏をうまく抑え込む目的があったからでござるので、「正道がなされないならば、辞めるべきだ。」と言いつつも彼らに辞められては困る事情もあったのでござろう。

結局孔子は魯国での理想実現に見切りをつけて弟子達を伴って諸国を巡り歩くこととなるのでござるが、その旅でも理想と現実の狭間で苦悩する事になるのでござる。

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