孔子の論語 泰伯第八の九 民は之に由らしむべし、之れを知らしむべからず

孔子の論語の翻訳196回目、泰伯第八の九でござる。

漢文
子曰、民可使由之、不可使知之。

書き下し文
子曰わく、民は之(これ)に由(よ)らしむべし。之れを知らしむべからず。

英訳文
Confucius said, “You can make people follow you. But it is difficult to make people understand the reason.”

現代語訳
孔子がおっしゃいました、
「人々を従わせる事はできても、その理由を人々に理解させるのは難しい。」

Translated by へいはちろう

孔子がこの言葉をおっしゃった時の真意はともかく、マキャベリズム的に受け取ると非常に嫌な言葉でござるな。

歴史を紐解けば、いつの世の中でも自分と違う考えを持つ人々や、自分の持っている知識を持たぬ人々を愚かだと嘲笑して、まるで自分が何か特別な存在であるかの様に錯覚している人はいるものでござる。

マキャベリも韓非子も理想に燃えながら現実の政治で挫折し、不遇な生活の中で非情としかいい様のない政治論を書き著したのでござるが、皮肉な事に彼らの政治論がある意味において評価されるのは民衆が古い倫理観と古い体制による支配を否定して新しい価値観を生み出す過程においてだったのでござる。

彼らの本を読めば解ると思うのでござるが、民衆を「愚かなもの」として扱うその内容は支配者も同様に「愚かである」事を如実に語っていて、為政者がこれらマキャベリズムを政治思想の根本にすえるのは愚の骨頂でござる。むしろこの様な考えが一般の人々に受け入れ始められた時、為政者は注意せねばならないでござろう。

もちろん現実を無視した理想論を蒙昧に信じるのではなく、少なくとも人々が理想ではなく現実ばかり見るようになったら、その為政者は人々にとって用済みとなったと言う事でござる。肝心なのは中庸でござる。

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