孔子の論語 子路第十三の四 焉んぞ稼を用いん

孔子の論語の翻訳317回目、子路第十三の四でござる。

漢文
樊遅請學稼、子曰、吾不如老農、請學爲圃、子曰吾不如老圃、樊遅出、子曰、小人哉樊須也、上好禮、則民莫敢不敬、上好義、則民莫敢不服、上好信、則民莫敢不用情、夫如是、則四方之民、襁負其子而至矣、焉用稼。

書き下し文
樊遅(はんち)、稼(か)を学ばんと請(こ)う。子曰わく、吾(われ)老農(ろうのう)に如(し)かず。圃(ほ)を為(つ)くることを学ばんと請う。曰わく、吾は老圃(ろうほ)に如かず。樊遅出(い)ず。子曰わく、小人(しょうにん)なるかな、樊須(はんす)や。上(かみ)礼を好めば、則(すなわ)ち民は敢(あ)えて敬(けい)せざること莫(な)し。上(かみ)義を好めば、則ち民は敢えて服(ふく)せざること莫し。上信を好めば、則ち民は敢えて情を用いざること莫し。夫(そ)れ是(か)くの如(ごと)くんば、則ち四方の民は其の子を襁負(きょうふ)して至らん。焉(いずく)んぞ稼を用(もち)いん。

英訳文
Fan Chi asked how to cultivate grain. Confucius replied, “An old farmer knows it better than me.” Fan Chi asked how to cultivate vegetables. Confucius replied, “An old farmer knows it better than me.” Fan Chi left the room. Confucius said, “He does not understand anything. If gentlemen value courtesy, the people respect them. If gentlemen value justice, the people obey them. If gentlemen value faithfulness, the people behave sincerely. If gentlemen are like these, many people come from all over the place with their children. We do not need to know about agriculture.”

現代語訳
樊遅(はんち)が穀物作りを学びたいと申し出た。孔子は、
「私よりお年寄りの農夫の方が詳しいだろう。」
と答えました。樊遅がさらに野菜作りを学びたいと申し出ると孔子は、
「私よりお年寄りの農夫の方が詳しいだろう。」
と答えました。樊遅が退出すると孔子は、
「あいつは何も解っていないな。もし上に立つ人間が礼儀を重んじれば、人々は彼らを尊敬するだろう。もし上に立つ人間が正義を重んじれば、人々は彼らに従うだろう。もし上に立つ人間が信義を重んじれば、人々は真心をもって行動するだろう。人の上に立つ人間さえこの様であれば、人々があちこちから子供を背負ってまでやってくるのだ。どうして農業など学ぶ必要があるだろうか。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

樊遅(はんち:姓は樊、名は須、字は子遅。孔子の弟子の一人。為政第二の五では孔子の御者をしている。)

集まってきた人間をどうやって食べさせるかという思案は孔子には無いのでござるな。農民は農作物を作るのが仕事だから勝手に耕作して勝手に食べて、ついでに年貢も納めてくれるだろうとでも言うのでござろうか。

孔子は樊遅を小人とまで言っているのでござるが、拙者は敢えて樊遅を擁護したい。樊遅が自分が食べる分だけを考えて農業を学びたいというのであれば確かに小人と言えるでござろう。孔子はそう思ったからこそこの様におっしゃったのでござる。

しかし人々を食べさせるために、灌漑設備を整えたり・新たな農法や道具を開発してひろめたり・開墾するために農民に農地を割り振ったり・余った食糧を備蓄したり足りない時には供出したり、人々の上に立つ人間がすべき事は数多くあるのでござる。確かに政治は「まつりごと」で、孔子は豊作を祈願したり雨乞いをしたりする「礼」の第一人者ではあるが、それだけでは儒学の技術軽視にもほどがあるといえるでござろう。

それに儒学者の尊敬してやまない聖帝たちは、確かに人格的にも立派であったが堯(ぎょう)は暦を定めて農民に種まき時を教え、舜(しゅん)は禹(う)に命じて黄河の治水をさせ、禹(う)は自ら率先して農業政策を行って人々を豊かにしたからこそ聖帝と称えられるのでござる。

孔子の真意は今回の文だけでは読みきれないのでござるが、孔子門下に農業に詳しい人間が一人くらいいても良かったはずだと拙者は思う次第。

子路第十三の英訳をまとめて読みたい御仁は本サイトの論語 子路第十三を英訳を見て下され。