孔子の論語 里仁第四の十五 夫子の道は忠恕のみ

孔子の論語の翻訳81回目、里仁第四の十五でござる。

漢文
子曰、參乎、吾道一以貫之哉、曾子曰、唯、子出、門人問曰、何謂也、曾子曰、夫子之道、忠恕而已無。

書き下し文
子曰わく、参(しん)よ、吾が道は一(いつ)以(もっ)てこれを貫(つらぬ)く。曾子(そうし)曰わく、唯(い)。子出(い)ず。門人(もんじん)問うて曰わく、何の謂(い)いぞや。曾子曰わく、夫子(ふうし)の道は忠恕(ちゅうじょ)のみ。

英訳文
Confucius said to Zeng Zi, “My life gives importance to keep only one thing.” Zeng Zi replied, “Yes, master.” After Confucius left, one pupil asked Zeng Zi, “What does master’s word mean?” Zeng Zi replied, “Master gives importance only to keep benevolence.”

現代語訳
孔子が曾子(曾参)におっしゃいました、
「参よ、私の人生はたった一つの事を貫く事にある。」
曾子は、
「はい。」
とだけ答えられました。孔子が出て行かれた後に弟子の一人が、
「今のはどういう意味でしょうか?」
と尋ね、曾子は、
「先生の人生は真心を貫く事にあるのだ。」
と答えられました。

Translated by へいはちろう

曾子(Zeng Zi, 姓は曾、名は参、字は子與。五経の一つである孝経を著した。ある時曾子と同姓同名の人間が人殺しをした。それを曾子と勘違いした人物が曾子の母親に「曾子が人を殺しましたよ。」と告げたが母親は信じなかった。次に別の人が同じ事を告げたがやはり母親は信じなかった。しかし三人目が同じ事を告げた時にとうとう母親は信じてしまい、慌てて家から飛び出したという。とても人殺しなどはしそうにも無い人格者である曾子、そして母親と言えば最後まで子供を信じるもの。人は何度も同じ嘘を聞けば信じてしまうと言う教訓。)

忠恕(ちゅうじょ)とは一般的に真心や思いやり、誠実さと解される事が多いのでござるが、仁を別の言い方にしたと解釈していただいて構わないでござるな。つまり忠恕を学問(知識と実践)によって人々に広めるのが孔子の使命だという事でござる。

孔子は衛霊公第十五の三でも子貢に対して「お前は私が何でも知っている物知りだと思っているのか?」と聞き、子貢が「はい」と答えると「私はたった一つの事を貫いているだけなのだ。」と答えているのでござる。

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