老子 第七十五章 それ唯だ生を以って為すこと無き者は、これ生を貴ぶより賢る

老子の翻訳、第七十五章でござる。

原文
民之飢、以其上食税之多、是以飢。民之難治、以其上之有爲、是以難治。民之輕死、以其求生之厚、是以輕死。夫唯無以生爲者、是賢於貴生。

書き下し文
民の飢(う)うるは、その上(かみ)の税を食(は)むことの多きを以(も)って、ここを以って飢う。民の治め難きは、その上の為すこと有るを以って、ここを以って治め難し。民の死を軽んずるは、その生を求むることの厚きを以って、ここを以って死を軽んず。それ唯(た)だ生を以って為すこと無き者は、これ生を貴ぶより賢(まさ)る。

英訳文
People are starved, because their government collect too much taxes. People disobey, because their government does too many things. People make light of life, because they value their own life excessively. In the first place, people who don’t think about their life are better than people who think too much about their own life.

現代語訳
民衆が飢えに苦しむのは、お上が税を取り立て過ぎるからで、それゆえに飢えるのだ。民衆が逆らいがちになるのは、お上があれこれと余計な事をするからで、それゆえに逆らうのだ。民衆が命を軽んじるのは、人々が自分の命に執着するからで、それゆえに命を軽んじる様になるのだ。そもそも人生についてあれこれ考えずにありのままに生きる者こそ、無駄に知恵を働かせて人生を尊ぶ者より勝っている。

Translated by へいはちろう

この章の後半部には解釈の分かれる難しい箇所がある。「民之輕死、以其求生之厚、是以輕死」に “上” の一字を足して「民之輕死、以其上求生之厚、是以輕死」とする意見が結構多いのでござる。拙者が主に参考にさせていただいている金谷治博士の解説書もそうなのでござるが、その方が前半の2句との意味の通じも良いし、文章の形も綺麗になる。

しかし “上” の一字を足して読むと「お上が自分の命を重んじるあまりに、民衆は自分の命を軽んじるようになる」となり、一見意味が通じるように見えて第十三章にあるような「我が身を重んじるような人物にこそ天下を任せられる」という従来の老子の主張にはそぐわないように思える。また最後の句も少々唐突な印象を受けておさまりも悪い。むしろここは本来の字句どおりに読み、前半2句と後半2句を分けて解釈した方が良いでござろう。

という事で前半2句は無為の政治を勧める句として解釈し、後半2句は「人生についてあれこれ考えすぎず、ありのままを受け入れて無為自然に生きよ」という無為の生き方を勧める句とした解釈した次第でござる。

拙者などよりはるかに見識の高い諸先生に反する解釈をするのは勇気のいることでござるが、あくまで共感というテーマにこだわって自分なりに納得できる解釈を優先した次第でござる。拙者のブログを読んで老子に興味を持った御仁がいたら、ぜひ書店で諸先生の書いた老子の解説書を手にとって読んでもらいたい。

老子の英訳をまとめて読みたい方は本サイトの老子道徳経を英訳をご覧くだされ。