老子 第七十二章 民、威を畏れざれば、則ち大威至る

老子の翻訳、第七十二章でござる。

原文
民不畏威、則大威至。無狎其所居、無厭其所生。夫唯不厭、是以不厭。是以聖人、自知不自見、自愛不自貴。故去彼取此。

書き下し文
民、威(い)を畏(おそ)れざれば、則(すなわ)ち大威(たいい)至る。その居る所を狎(せば)めること無く、その生くる所を厭(あつ)すること無かれ。それ唯(た)だ厭せず、ここを以(も)って厭せられず。ここを以って聖人は、自ら知りて自ら見(あら)わさず、自ら愛して自ら貴(たっと)しとせず。故に彼(か)れを去(す)てて此(こ)れを取る。

英訳文
If you oppress the people with punishments, you will get a divine punishment. You must not threaten their house. You must not hinder their living. If you do not threaten their life, they will not threaten your reign. So the saint who knows “the way” never attracts others’ attention though he has wisdom to know himself. He never considers himself as a special one though he loves himself. He never governs the people by oppression. He governs them by doing nothing.

現代語訳
為政者の権威を恐れなくなるほどに民衆を追い詰めると、世は乱れて大いなる天の罰を受けることになる。人々の住む所をおびやかしてはならないし、人々の生業を邪魔してはならない。人々の生活をおびやかす事がなければ、人々が為政者をおびやかす事も無い。だから「道」を知った聖人は、自らの分を弁える知恵を備えて自ら目立とうとはせず、自らを愛しながらも自らを特別な存在だなどとは思わない。こうして権威を振りかざす政治を捨て去り、余計なことはしない無為の政治を選ぶのだ。

Translated by へいはちろう

秦は法家の思想に従って厳しい法と罰によって民衆を圧迫し、中国史上初の農民反乱である陳勝・呉広の乱を招いた。乱そのものは数年で鎮圧されたものの、それを契機に各地で反乱が起こり秦はたった15年で滅ぶ結果となったのでござる。

人々が為政者の権威を認め法と罰による統治を受け入れるのは、ひとえにそれが彼らの生活を守るからでござる。しかし為政者自ら人々の生活を脅かすようになれば、誰も為政者の権威を認めるはずもない。だから為政者は自らを弁えて自らを律し、自らを愛するように人々を愛して余計なことをしないようにせよ。という様な事をおっしゃっているのだと考える次第でござる。

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