老子 第三十三章 足るを知る者は富み、強めて行なう者は志有り

老子の翻訳、第三十三章でござる。

原文
知人者智、自知者明。勝人者有力、自勝者強。知足者富、強行者有志。不失其所者久。死而不亡者壽。

書き下し文
人を知る者は智、自ら知る者は明(めい)なり。人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し。足るを知る者は富み、強(つと)めて行なう者は志有り。その所を失わざる者は久し。死して而(しか)も亡びざる者は寿(いのちなが)し。

英訳文
To understand others is ordinary wisdom. But to understand oneself is clear wisdom. You need power to defeat others. But you need true power to defeat yourself. A person who knows contentment has true wealth. A person who continues his efforts has already achieved his purpose. A person who keeps his original self can last long time. To accept one’s plain self along “the way” and to forget about death is true longevity.

現代語訳
他人を理解する事は普通の知恵のはたらきであるが、自分自身を理解する事はさらに優れた明らかな知恵のはたらきである。他人に勝つには力が必要だが、自分自身に打ち勝つには本当の強さが必要だ。満足する事を知っている人間が本当に豊かな人間で、努力を続ける人間はそれだけで既に目的を果たしている。自分本来のあり方を忘れないのが長続きをするコツである。死にとらわれず、「道」に沿ってありのままの自分を受け入れる事が本当の長生きである。

Translated by へいはちろう

今回の章は良い言葉が多すぎてどれをピックアップして語れば良いのか解らなくなるでござるな。拙者としては「足るを知る者は富み、強めて行なう者は志有り」の部分が好きなのでござるが、人や書物によって様々な解釈がなされる「死して而も亡びざる者は寿し」の部分について話すとするでござる。

この部分を拙者は上記の通り、「死にとらわれず、道に沿ってありのままの自分を受け入れる事が本当の長生きである」と独自の解釈しているのでござるが、元々の字をそのまま素直に解釈すると「たとえ死んだとしても亡びない者が長生きである」という事になってこのままでは何が何やら訳がわからない。

この「死んでも亡びない」の部分を神秘主義的に解釈すると死後の復活、すなわち尸解(しかい)して仙人になる事だとする説もあって、こういう解釈が後の世の神仙思想を生み出すのでござるが、拙者の頭の中には「そういう老子は存在しない」ので、あくまで生きている間の教訓として解釈したのでござる。

しかしだからと言ってこの部分を儒学的に「歴史に名前を残して人々の心の中に生きる」という様に解釈をするのも老子らしくない。そこで拙者の中の老子像を膨らまして解釈すると「死んでも亡びない」というのは「生死の概念にとらわれない」というある種の諦観の境地の事だと思い至ったわけでござる。

第二十章で老子は知識が迷いを生み出すとおっしゃっているのでござるが、長寿への渇望とは「死に対する恐怖」でござる。ゆえに老子の考える「長生き」とは、死への恐怖を忘れ、自分の年齢や健康の事も忘れて、ありのままの自分を受け入れて生きる事だと結論した次第でござる。

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