学問のすすめ 四編 段落四 蓋し一国の文明は独り政府の力を以て進むべきものに非らざるなり

学問のすすめの翻訳、四編 段落四でござる。

現代語訳

 これは政府が一新してから、政府で働く人々が努力を怠ったという訳でも、その能力が劣っていたという訳でもない。何か目的を果たそうとしても、どうにもならない原因によって思い通りにいかない事も多いからである。この場合の原因とは人民が無知無学だという事に他ならない。

政府もすでにこの原因に気づいており、しきりに学術を勧め、法律を議論し、商売のやり方を示すなどしたり、あるいは人民に教え聞かせたり、自らが例となって模範を示そうとしたり、様々なやり方を試してはいるものの、今日に至るまでその成果が上がってるとは言えず、政府は依然として専制的であり、人民は依然として無気力な愚民のままである。中にはわずかながらに進歩が見える部分もあるにはあるが、そのために要した労力と費用とに比べれば、成果が上がってる様には見えないのは何故だろうか。それは一国の文明は、政府だけの力によって進歩させられるものではないからである。

英訳文

It is not because the officers of the new government are either lazy or incompetent, but because there are many things you can do nothing about even if you try to do. In this case, it is nothing else but the ignorance of the people.

Even though the government knows it and is trying every means, encouraging learning repeatedly, discussing the law, showing the people how to trade, persuading the people and serving as a model for the people, it has had little success. The government is still despotic and the people are still spiritless and ignorant. If it seems there is a little progress, , you cannot call it a success as compared with the costs. That’s because the civilization of a country cannot be developed by the government alone.

Translated by へいはちろう

ようやく本題に入りつつある様でござるな。フランス革命にしろ他の国の大改革にしろ、何らかの歴史的出来事によって突然民衆が賢くなったり新たな文明が生まれたりする訳ではない。そこへ至るまでの知識やエネルギーの蓄積が不可欠なのでござる。

エネルギーの蓄積が民衆の現状に対する不満とすれば、知識の蓄積を担うのは民衆に近しい立場の知識人でござろう。明治の世で言えばまさに福沢諭吉がその代表的人物と言えるでござろうが、福沢以外の人物の名がなかなか挙がらない所に日本の問題点を感じざるを得ないでござるな。

おそらくは日本だけの問題ではないのかも知れないが、例えば大きな改革を成し遂げた政治的指導者、あるいは偉大な発見をした科学者と言った人々は評価されやすい。しかしそれらの人々を生み出す土壌を育てる事もまた重要でござろう。その役目を担うのが学者の使命である、というお話がこの後続くでござるよ。

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