老子 第四十三章 不言の教、無為の益は、天下これに及ぶもの希なり

老子の翻訳、第四十三章でござる。

原文
天下之至柔、馳騁天下之至堅。無有入無間、吾是以知無爲之有益。不言之教、無爲之益、天下希及之。

書き下し文
天下の至柔(しじゅう)は、天下の至堅(しけん)を馳騁(ちてい)す。有る無きものは、間(すきま)無きに入る。吾れここを以(も)って無為の益あることを知る。不言の教(おしえ)、無為の益は、天下これに及ぶもの希(まれ)なり。

英訳文
The most soft thing can handle the most hard thing. A formless thing can get into a narrow gap. So I know that how useful doing nothing is. There are few better things than wordless teachings and usefulness of doing nothing.

現代語訳
この世の最も柔軟な物が最も堅固な物を思い通りにする事が出来る。また決まった実体を持たぬものだけが本当にわずかな隙間に入り込む事が出来る。私はこの事によって無為である事の有益さを理解しているのだ。言葉に頼らない無言の教えと、無為である事の有益さに匹敵するものは、この世にはほとんど無い。

Translated by へいはちろう

さてだいぶ間が空いてしまったでござるが、いい加減老子の翻訳を終わらせねば雑談をする事もできないので、翻訳を再開するでござる。

最初の部分は第三十六章で「柔弱は剛強に勝つ」とおっしゃっているのと同じでござるな。また次の部分は第四十一章で、「大象は形無し」とおっしゃっているのと同じでござる。これらによって本当に優れたものは、一見しただけではその真価が解らないという事をおっしゃりたいのだと思う次第でござる。

そして本当に優れたものとは “無為”、つまりことさら特別な事は何もしないという事でござる。人はとにかく “何かをやりたがる” 性質があるもので、何かをやる事に満足し、何もしないと罪悪感さえ覚える人もいる。しかしそれは大きな視点からみれば単なる自己満足に過ぎず、かえって状況を悪くする事もある。為政者が世の中を良くしようと思ってした事が、かえって裏目にでて社会を混乱させたなんて例は歴史に後を絶たない。他人にされるおせっかいは迷惑だが、自分がするおせっかいには気づかないのが人間でござる。

この様な視点から過去の自分の行いを振り返れば、無為の有益性にしみじみと納得せざるを得ないものがあるでござるな。

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