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孔子の論語 微子第十八の六 天下道あらば、丘は与に易えざるなり

孔子の論語の翻訳477回目、微子第十八の六でござる。

漢文
長沮桀溺耦而耕、孔子過之、使子路問津焉、長沮曰、夫執輿者爲誰、子路曰、爲孔丘、曰、是魯孔丘與、對曰是也、曰是知津矣、問於桀溺、桀溺曰、子爲誰、 曰爲仲由、曰是魯孔丘之徒與、對曰、然、曰滔滔者天下皆是也、而誰以易之、且而與其從辟人之士也、豈若從辟世之哉、耰而不輟、子路行以告、夫子憮然曰、 鳥獣不可與同群也、吾非斯人之徒與而誰與、天下有道、丘不與易也。

書き下し文
長沮(ちょうそ)、桀溺(けつでき)、藕(ぐう)して耕す。孔子これを過ぐ。子路(しろ)をして津(しん)を問わしむ。長沮が曰わく、夫(か)の輿(よ)を執 (と)る者は誰と為す。子路が曰わく、孔丘(こうきゅう)と為す。曰わく、是(これ)魯の孔丘か。対(こた)えて曰わく、是なり。曰わく、是ならば津を知らん。桀溺に問う。桀溺が曰わく、子は誰とか為す。曰わく、仲由と為す。曰わく、是魯の孔丘の徒(と)か。対えて曰わく、然(しか)り。曰わく、滔滔(とうとう)たる者、天下皆な是なり。而(しか)して誰と以(とも)にかこれを易(か)えん。且(か)つ而(なんじ)其の人を辟(さ)くるの士に従わんよりは、豈(あ)に世を辟くるの士に従うに若(し)かんや。憂(ゆう)して輟(や)まず。子路以て告(もう)す。夫子(ふうし)憮然(ぶぜん)として曰わく、鳥獣(ちょうじゅう)は与(とも)に群を同じくすべからず。吾(われ)斯の人の徒と与にするに非(あら)ずして誰と与にかせん。天下道あらば、丘は与に易(か)えざるなり。

英訳文

Chang Ju and Jie Ni were plowing together. Confucius passed by them and made Zi Lu ask them where the ferry is. Chang Ju asked, “Who is the man on the carriage?” Zi Lu replied, “He is Confucius.” Chang Ju asked, “Confucius of Lu?” Zi Lu, “Yes, he is.” Chang Ju said, “I think he knows where the ferry is (because he is wandering). Zi Lu asked Jie Ni (where the ferry is). Jie Ni asked, “Who are you?” Zi Lu replied, “My name is Zi Lu.” Jie Ni asked, “Are you the disciple of Confucius?” Zi Lu replied, “Yes, I am.” Jie Ni said, “You cannot swim against the current. It is troubled times now. With whom does he think to change the current? You had better join people who avoid troubled times than follow the person who avoid people that he thinks worthless.” They were still plowing. Zi Lu told their words to Confucius. Confucius said glumly, “We cannot live with only animals. We have to live with people. If the world is in order, I do not have to struggle against the current.”

現代語訳
長沮(ちょうそ)・桀溺(けつでき)という二人の隠者が畑を耕していた。孔子一行がその側を通りがかり、孔子は子路(しろ)に渡し場がどこにあるか尋ねるよう命ぜられた。
長沮が、
「馬車の上に居るお方は誰かね?」
と尋ね、子路は、
「孔子です。」
と答えました。長沮が再び、
「魯の孔子かね?」
と尋ね、子路は、
「はい。」
と答えました。すると長沮は、
「孔子なら(あちこち放浪しているから)渡し場くらい知ってるんじゃないかね。」
と言いました。子路が桀溺に渡し場の場所を尋ねると。
桀溺は、
「ところでお前さんはどちら様だね?」
と尋ね、子路は、
「仲由子路と申します。」
と答えました。桀溺が再び、
「孔子のお弟子の子路さんかね?」
と尋ね、子路は、
「はい。」
と答えました。すると桀溺は、
「時代の流れに逆らっても無駄だよ。今は世の中全体が乱れているんだ。(あの国も駄目、この国も駄目と放浪して、)あの人は一体誰と一緒にこの流れを変えようと言うのかね? お前さんも自分が認めぬ人間を捨てる人物に従うより、乱れた世を捨てる我々に従った方が良くはないかね?」
と言いました。彼らはその間もずっと畑を耕していた。
子路が孔子の元へ戻り、彼らの話を告げると孔子は憮然とした表情で、
「鳥や獣とだけ生活するわけにはいかんのだ。人間と苦労を共にしないでどうするのか? それにもし世の中が乱れていなければ、私がこの流れを変える必要もないのだ。」
とおっしゃいました。

Translated by へいはちろう

長沮・桀溺(ちょうそ・けつでき:隠者。)

子路(しろ:季路とも言う。姓は仲、名は由、字は子路。詳細は公冶長第五の七に。)

世を捨てて餓死した伯夷・叔齊を仁者と褒めている事から、孔子は隠者を完全否定している訳ではないと思うのでござるが、この章では隠者たちとの考え方の違いを明確におっしゃっているでござるな。

それにしても長沮・桀溺の指摘は辛辣と言えるほど孔子の痛い所をついているでござるな。人間社会の中での理想を求めながら、自分の理想に適わぬ人間を切り捨てていって、果たして理想を達成できるものでござろうか?

晩年の孔子は自ら政治に携わる事はあきらめて後進の教育に専念したのでござるが、自分の理想がいつか実現する事を信じておられたのでござろうか…

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孔子の論語 微子第十八の五 楚の狂接輿、歌いて孔子を過ぐ

孔子の論語の翻訳476回目、微子第十八の五でござる。

漢文
楚狂接輿歌而過孔子、曰、鳳兮鳳兮、何徳之衰也、徃者不可諌也、來者猶可追也、已而已而、今之從政者殆而、孔子下欲與之言、趨而辟之、不得與之言。

書き下し文
楚の狂接輿(きょうせつよ)、歌いて孔子を過ぐ、曰わく、鳳(おおとり)よ鳳よ、何ぞ徳の衰えたる。往(ゆ)く者は諌(いさ)むべからず、来たる者は猶(な)お追うべし。已(や)みなん已みなん。今の政(まつりごと)に従う者は殆(あや)うし。孔子下(お)りてこれと言(い)わんと欲す。趨(はし)りてこれを辟(さ)く。これを言うことを得ず。

英訳文
Jie Yu, the lunatic of Chu, sang a song passing Confucius, “Phoenix, phoenix,  you waste your virtue. It is useless to advise on the past. But I can advise on the future. Stop it. Stop it. A person who engages in politics is danger now.” Confucius got off the carriage and wanted to talk with him. But Confucius could not talk, because Jie Yu ran away.

現代語訳
楚の狂人・接輿(せつよ)という者が、孔子の側を歌いながら通り過ぎた。
「鳳(おおとり:鳳凰)よ、鳳よ、なんと徳を衰えさせたものだ。過ぎた事を言っても仕方ないが、これからの事はまだ間に合う。止めなさい、止めなさい。今の世に政治に関わるのは危険だ。」
孔子は馬車から降りて接輿と語り合いたいと思われたが、接輿は走って逃げてしまったので話ができなかった。

Translated by へいはちろう

接輿(せつよ:楚の狂人・隠者。姓は陸、名は通。楚昭王の時に政治が乱れたので、接輿は髪を剃って狂人のふりをして世を避けた。)

日本語で読むと解らないのでござるが、接輿の歌った詩は韻を踏んでいて、内容もさる事ながら接輿がただの狂人ではない事を表しているのでござる。

孔子はこの歌を聞いて接輿が只者ではないと思って語り合おうとしたが、逃げられてしまったという事でござる。

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孔子の論語 微子第十八の四 斉人、女楽を帰る

孔子の論語の翻訳475回目、微子第十八の四でござる。

漢文
齊人歸女樂、季桓子受之、三日不朝、孔子行。

書き下し文
斉人(せいひと)、女楽(じょがく)を帰(おく)る。季桓子(きかんし)これを受く。三日朝(ちょう)せず。孔子行(さ)る。

英訳文
Qi sent female band and dance troupe to Lu as a gift. Ji Huan Zi accepted it and did not attend the palace for three days. Confucius was disappointed by that and left Lu.

現代語訳
斉が魯に女性の舞踊楽団を贈りました。魯の宰相である季桓子(きかんし)はこれを受け取り、三日も通って朝廷に出頭しませんでした。孔子はこれに失望して、魯を去られました。

Translated by へいはちろう

季桓子(きかんし:魯の宰相。魯の実質的支配者である三桓氏の筆頭の季孫氏の当主。孔子及び門弟の魯におけるパトロン的存在だが、孔子からは君子として認められてなかったようである。)

斉は孔子によって魯が強国となるのを恐れて、魯の実力者たちを骨抜きにしようと女性の舞踊団を贈ったといわれているでござる。それが真実であれば、まんまと成功したと言う訳でござるな。

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孔子の論語 微子第十八の三 斉の景公、孔子を待つに曰わく

孔子の論語の翻訳474回目、微子第十八の三でござる。

漢文
齊景公待孔子曰、若季氏則吾不能、以季孟之間待之、曰、吾老矣、不能用也、孔子行。

書き下し文
斉の景公(けいこう)、孔子を待つに曰わく、季氏(きし)の若(ごと)きは則(すなわ)ち吾(われ)能(あた)わず。季孟(きもう)の間を以てこれを待たん。曰わく、吾老いたり、用いること能わざるなり。孔子行(さ)る。

英訳文
Marquis Jin of Qi said to Confucius, “I cannot treat you like Ji family of Lu. I will treat you at the level between Ji family and Meng family.” After a while, Marquis said, “I’m old. I cannot employ you.” Then Confucius left Qi.

現代語訳
斉の景公(けいこう)が孔子の待遇について言いました。
「魯の季孫氏(きそんし)ほどの待遇はできませんが、季孫氏と孟孫氏の中間ほどの待遇であなたを用いましょう。」
しかしそのしばらく後で、
「私も年をとりました。あなたを用いる事はできません。」
と言い。孔子は斉を去られました。

Translated by へいはちろう

斉の景公(けいこう:斉の25代目。詳細は顔淵第十二の十一に。)

季孫氏(きそんし:当時の魯の国を実質的に支配していた三桓氏(孟孫・叔孫・李孫の御三家)の一つ。)

孔子が斉に仕官しようとした時のエピソードでござるな。詳細は顔淵第十二の十一公冶長第五の十七の解説をお読みくだされ。

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孔子の論語 微子第十八の二 道を直くして人に事うれば、 焉くに往くとして三たび黜けられざらん

孔子の論語の翻訳473回目、微子第十八の二でござる。

漢文
柳下惠爲士師、三黜、人曰、子未可以去乎、曰、直道而事人、焉徃而不三黜、枉道而事人、何必去父母之邦。

書き下し文
柳下恵(りゅうかけい)、士師(しし)と為(な)り、三たび黜(しりぞ)けらる。人の曰わく、子未だ以て去るべからざるか。曰わく、道を直くして人に事(つか)うれば、 焉(いず)くに往くとして三たび黜けられざらん。道を枉(ま)げて人に事うれば、何ぞ必ずしも父母の邦(くに)を去らん。

英訳文
Liu Xia Hui became the chief judicial officer. But he was dismissed three times. Someone asked, “Why don’t you leave this country?” Liu Xia Hui replied, “If a person serves a country honestly, he may be dismissed three times in every country. If I did not serve honestly, I have no reason to leave my home country.”

現代語訳
柳下恵(りゅうかけい)が司法長官となった時、三回も罷免された。
ある人が、
「どうして三回も罷免されたのに、この国を去らないのですか?」
と尋ねると、柳下恵は、
「真っ正直に仕えれば、どこの国でも三回くらいは罷免されて当然です。不正直に仕えるくらいなら、生まれ故郷の国を見捨てる必要もまたありません。」
と答えました。

Translated by へいはちろう

柳下恵(りゅうかけい:魯の臣。姓は展、名は禽、字は季、柳下は号、恵は諡号。詳細は衛霊公第十五の十四に。)

正直に仕えたからこそ、上役に嫌われて罷免されたのだという事でござるな。正直に仕えて罷免されるのは恥では無い、むしろ不正直に使える事が恥なのだと言ってるのでござろう。

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